
CAEという言葉を聴いたことのあるひとは、どのくらい居るだろうか?
CAE―Computer Aided Engineering―と呼ばれる、計算機によって設計開発を補助する手法は、 現在多くの工業分野で用いられている手法である。(ちなみにいうと、私の専門分野もこの方面に関係している)
このCAE、CADとは少し違う。
CADは設計データを吐き出して終わりだ。
しかしCAEは、そのCADデータを元に、製品が使われるだろう条件を設定し、有限差分法や有限体積法、有限要素法、
境界要素法といった計算手法を用いて、計算機によって製品の耐久性や熱の伝わり方などを調べようという手法なのである。
たとえば、自動車の設計において、本物の自動車を何度も衝突実験に回すのは、コストの面から見て得策でないことは明らかである。
そこで、CAEを使ってある程度信頼できそうなボディー設計を行うのだ。その後で衝突実験を行えば、コストはぐっと安くなる。
もちろんこれは自動車以外にも、船舶や航空機、もっと言えば家電やテーブル、PC、カメラ、マウスなど、日常出会う、 ありとあらゆる工業製品に共通したことなのである。
しかしこのCAE、ちょっと手を出してみるには環境の準備が大変だ。
そこで本日紹介するのはCAE Linux。
Live DVDとして提供され、公式サイト曰く「5分で」CAE環境が整うという、PC Linux
OSベースのLinuxディストリビューションである。
先にも書いたとおり、CAEはいまや工業界において欠かすことのできない手法なので、非常に多くの企業がCAEや、 その手法に関する知識のある人材をほしがっている。学問で言えば、計算工学という学問がそれにあたるが、 現在国内でこれを専攻できる場所は少ない。
であれば、OSSの利を生かして独習するというのも、ひとつの手だろうと私は思うのである。
CAE Linuxはそんなユーザも支援してくれることだろう。
まず注目したいのは、そのソフトウェア構成である。
CAE LinuxはSalomé(あるいはSalome)、Code_Aster、
Code_SaturneそしてOpenFOAMといった、オープンソースなCAEソフトで構成されているのだ。
オープンソースだからと侮るなかれ。CADデータをこれに読み込ませてメッシュを切れば、
あっという間にシミュレーションを行うための土台が出来上がってしまうのだ。
Salomeを使えば有限要素法を用いたシミュレーションが、Code_Asterを用いれば、有限要素法を用いた流体 (固体ではない!)のシミュレーションが、OpenFOAMを用いれば非線形な熱現象に関するシミュレーションが行えるなど、 非常に幅広い分野のシミュレーションを行えるソフトウェアを内包していることも特徴的で、 その上それらのソフトウェアはシミュレーション結果を可視化するところまでやってくれるのである。(詳しくない方のために補足しておくと、 これらのシミュレーションは大抵の場合、非線形な偏微分方程式の解を求めるという形で行われる。数学の好きな方は、 これが非常に困難な要求であることを察しているだろう。)
「可視化?あたりまえじゃないか」と思ったあなたはCAEへの理解が甘い。
CAEは、計算機の能力向上によって広まってきた分野であって、計算工学という学問として研究され始めてからも日が浅いテクノロジーだ。
だから、先の有限要素方や有限差分法を用いて計算した結果を、数値として出力するソフトウェアというのもざらに存在する。
「データは出力しますから、可視化はそちらでやってください」というわけだ。
これらのソフトウェアに対し、CAE Linuxに搭載されているソフトウェアは一通りの可視化機能を備えているため、
シミュレーション結果を検討する際にも、大きく役立ってくれること間違いなしである。
GUIには美麗なKDEを向かえ、先にあげたソフトウェア以外にもElmer、 Calculix、 Tochnog、 Impact、MBDynといった、各種の物理シミュレーションソフトを利用可能だ。
またGNU OctaveやR & Rkward、Scilab、wxMaximaも付属しているので、
シミュレーション結果を分析するのにも使える。
もちろんLinuxらしく開発ツールの類も付属するため、腕に覚えがあれば、
シミュレーションソフトの改造用プラットフォームとしても使えるだろう。
逆にCAE以外の部分はPC Linux OS 2007そのままであるとも言え、先にあげたKDE以外にも、 3ステップでハードディスクに導入できる機能や3Dディスプレイドライバの同梱、WiFiサポートなど、 通常使うシステムとしても遜色ないサポートがなされている。
最後に、公式ホームページではCAEがどんなものか?CAE Linuxはどのようなことに使えるのか? といったチュートリアルビデオ(工場見学が好きな人なら、見ているだけでも楽しめるだろう)が公開されているので、 興味があればご覧になるとよいと思う。
また、ちょっとした興味で複雑な形状のCADデータをシミュレーションにかけないことを心に留めていただきたい。
なぜなら、こういったシミュレーションには、膨大な計算能力と、計算のための時間が必要だからだ。
(すなわち、できるだけ肥沃な環境で動かすことが、ハッピーになるコツである)
時代を担うテクノロジー。それを無償で手に入れるというのが、なんともおもしろいと思える。
関連リンク:
[CAE Linux]
スポンサードリンク


